沖縄タイムス「唐獅子」掲載 提供 有限会社 南謡出版
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書きことばと復興運動  (掲載2007.2.2)
日本語版 うちなあぐち版

 

話しことばの音声要素は母音、子音、高低ぐらいしかないが、書きことばの素となる文字や記号は人造であるから多種多様となる。話しことばを身体にたとえるなら、書きことばは衣装である。多様にある衣装のどれを正装とするかは、共同体の感性や価値観によって異なるように、どういう書きことばにするかは、言語に対する位置付けや価値観によって決まる。Tシャツは衣服として最小限の機能を有する。だが公式の場ではスーツのような正装が支配的である。機能性と合理性が優先されているかに見える現代においてさえも美意識に訴えるものが付加されなければ殆どは商品にならない。人間は美を求める動物のようである。美意識が文化を育み、文明を産む原動力の一つとなるのだろう。

廃藩置県の翌明治十三年、沖縄の言語を本州と同一にすることを急務としていた県は日本語教科書『沖縄對話』を出版した。その中のうちなあぐちは、次のようにカタカナと棒引き記号だけの簡便な表音表記となっている。衣装でいえばTシャツの類である。

「ヒルマー ナマ アツサヤビーシガ アサバノー ウヘー スダク ナトウヤビーサーヤー」(上の巻、第一章四季の部、秋)【註】

この表記はうちなあぐち散文の表記に影響を与えた。現在は漢字も使われ、ひらがなに換わったが、棒引き記号が残るなど、まだ表音的表記が基調である。世界の主な言語について見ると、書きことばは話しことばから産まれたにも拘わらず、完成すると独り歩きし、話しことばにも影響を与えるほどの地位を築く。だが、うちなあぐちにおいては、「書きことば」は単に話しことばの表記であればよいという従属的な地位に抑えられ、未熟のままである。そのためか、長らく地の文に用いることを嫌がられてきた。書きことばの完成は共同体の決意と努力に依存する。

言語が完成された書きことばを持つに至ったとき、独立した言語としての一応の体裁を整えることになる。言い換えれば、自らの言語について、独立言語としての意識また民族心がなければ、書きことばを持つことは難しいのである。

書きことばを完成させることが復興運動を左右する段階にきていないだろうか。

註:「昼間は、今暑いですが、朝晩は、少しは涼しくなりましたね」

注:字数等の関係で「唐獅子」と文言が違うところが若干あります

 

話しくとぅばぬ音声要素や母音、子音、上ぎ下ぎぐれえしかねえらんしが、書ちくとぅばぬ素(むとぅ)とぅないる文字んでえ記号んでえや人造どぅやくとぅ多種多様あん。話しくとぅばゆ身体(どぅう)んかい、例(たとぅ)いねえ、書ちくとぅばあ衣(ちん)やん。いちゃっさきいなあぬ種類ぬあぬ衣ぬうち、じる正装とぅすがんでぃゆるくとお、共同体ぬ感性んでえ価値観にゆてぃ違ゆんねえし、如何(ちゃ)ぬゆうな書ちくとぅばんかい、すがんでぃゆるくとお、言語に対(てえ)する考えとぅか価値観にゆてぃる決(ち)わみらりいるむぬやん。Tシャツや衣とぅしち最小限ぬ機能持っちょをん。やしが公式ぬ場うとをてえスーツねえそをる正装がる支配的やる。機能性とぅ合理性が優先さっとをんねえ、見ゆる現代うとをてぃん美意識に訴えゆるむんぬねえらんあれえ、てえげえや商品んかいやならん。人間(にんじん)や美ましし、とぅめえゆる動物(いちむし)やいぎさん。美意識が文化育(すだ)てぃやい、文明産(な)する原動力ぬ一(てぃい)ちとぅないぬばすやるはじ。

廃藩置県ぬ翌(ゆく)明治十三年、沖縄ぬ言語ゆ本州とぅ一ちとぅすぬくとぅ急(いす)じょをたる県や日本語教科書『沖縄對話』ゆ出版さん。うぬ中ぬうちなあぐちえ、次ねえしカタカナとぅ棒引ち記号びけんなかいぬ簡便な表音表記とぅなとをん。衣んかい例れえTシャツねえそおるむぬやん。

「ヒルマー ナマ アツサヤビーシガ アサバノー ウヘー スダク ナトウヤビーサーヤー」(上の巻、第一章四季の部、秋)【註】

くぬ表記え、うちなあぐち散文ぬ表記んかい影響さん。現在(なま)あ漢字ん使(ちか)あらってぃ、ひらがなんかい換わたるむんやしが、棒引ち記号ぬ残(ぬく)ゆんとぅか、なあだ表音的表記ゆむとぅとぅとぅそをるむんやる。世界(しけえ)ぬうふ言語にちいてぃ見(ん)じいどぅんしえ、書ちくとぅばあ、話しくとぅばから産(ん)まりたるむぬどぅやしが、完成しいちいねえ独(どぅう)ちゅい歩っちいし、話しくとぅばんかいん影響すぬあたいぬ分(ぶん)ぬんかいなゆん。やしが、うちなあぐちうとをてえ、「書ちくとぅば」あ、ただ話しくとぅばぬ表記やれえしむんでぃゆぬ従属的地位んかい抑いちきらってぃ、しむるどぅなとをる。うぬたみがやら、長えさゑえだ地ぬ文ぬんかい使ゆしえ、はごうささってぃちゃん。書ちくとぅばぬしい成しや共同体ぬ肝とぅ努力んかいかかやあどぅやる。

言語が完成さっとをる書ちくとぅばゆ持っちゅるくとぅんかいなたるばす、独立っちいそをる言語とぅしちぬ、いいくるぬ風儀(ふうじ)作ゆるくとぅんかいなゆん。言いどぅんしえ、自ぬ言語にちいてぃ、独立言語としちぬ意識また民族心ぬねえらんあれえ、書ちょくとぅば持っちゅるくとお難(むちか)さるむんやん。

書ちくとぅば完成しみゆるくとぅが、うちなあぐちぬ復興運動ぬ行方(ゆくい)決わみゆる時期(じしち)んかいなてえ、うらんがや。

註:「昼間あ、なま、暑さやびいしが、朝晩のお、うえへえ、すだく、なとをやびいさあやあ」

注:字数んでえぬ関係なかい、「唐獅子」とぅ文言ぬ違とをるとぅくるぬあいびいん。