１　桃太郎伝説

昔々(んかしんかし)、ある所(とぅくる)んかい、御主前(うしゅめえ)とぅ婆前(はあめえ)がめんせえいびたん。ある日(ふぃい)、御主前や山んかい薪(たむん)、取(とぅ)いが、婆前や河原(かあら)んかい着物(ちん)、洗れえが行ちゃびたん。

 　婆前がいっそうまぬぐとぅ、着物洗えそをたるばす、河原ぬ上辺(うゎあび)ぬ傍(はた)からいっぺえぬまぎ桃(むむ)ぬゆったいくゎったいし、流りてぃ来(ち)ゃあびたん。

　婆前やとぅんもういがちいん、「くぁっちいさびら」んでぃ言ち、うぬ桃、盥(たあれえ)んかい乗(ぬ)しやびたん。着物洗れえや、早(ふぇえ)く、終(うわ)らち、がんしな、ちぶるんかい置(う)っちゃきてぃ、桃、乗してえる盥、かみてぃ、家(やあ)んかい戻(むどぅ)やびたん。

ちゅてえぐゎあ、待っちょをたれえ、御主前が山から戻てぃちゃあびたん。御主前ん、まぎ桃、見(ん)ち驚(うどぅる)ちゃびたん。

　二人(たい)や、茶わきとぅし、うぬ桃うさがゆるくとぅんかいさびたん。婆前が、うぬ桃、切(ち)ゆんでぃ、包丁(ほうちゃあ)、ぬさきたれえ、中から声(くぃい)ぬさびたん。

「待っちみそをり、桃、切ゆしえ、待っちみそをり」

  二人がまたん、とぅんもおてぃ互に面(ちら)、見ちゃい、桃、見ちゃいそをたるばす、うぬ桃おあっとぅむす、なんくる、二(たあ)ちんかいたっち割りやびたん。桃ぬ中(なあか)んかいや赤ん子(ぐゎ)ぬあふぁなちゃあそをいびたん。ちいすらあし、足(ふぃさ)んくんぱてぃ、思(うみ)い切ち、泣ち始(はじみ)みやびたん。御主前とぅ婆前や、今度おでえじな驚ちゃびたん。やしが、また驚ちゅしん、いっとぅちゃ、直ぐに、いっぺえ、いそうささびたん。

「とお、なあ、くぬ赤ん子あ、子ん居らんいがろうんかいぬ天(てぃん)からぬなあぎ物(むん)どぅやるはじ」

　御主前とぅ婆前やうぬ赤ん子んかい桃から生(ん)まりたくとぅんでぃ言ち、桃太郎んでぃ名(な)付(じ)きさびたん。

桃太郎や二人なかいかながなとぅ、ふどぅわあさってぃ、まぎくなてぃ、ぐてえ持ちぬ、また、だてえぬ良いかあぎぬ二才(にいせえ)んかい成やびたん。

うぬ時分(じぶん)、京(ちょう)ぬ町方んかい、いいくる鬼(うに)が島から鬼ぬ攻(し)みてぃ来ゃあに、町うとおてぃ、じまま、しい欲(ぶ)しゃ勝手(かってぃい)し、銭金(じんかに)ぬあるっさ、盗(ぬす)でぃ行ちゅんでぃゆる話ぬ桃太郎ぬ耳んかい幾けんぬん入っち来ゃあびたん。ある日、桃太郎や御主前とぅ婆前んかい、うんぬきやびたん。

「御主前さり、婆前さり。我ねえ鬼ぬ話、聞ちゅるかあじ、わじわじいしないびらん。どうでぃん、我、京町ぬ人(ちゅ)んちゃあ、守(まむ)いが行かち呉ぃみそをり」

　御主前とぅ婆前やちゅてえや驚ちゃびたん。やしが、御主前や「やさ」んでぃ強々(ちゅうづう)く言ゃびたん。「考えてぃん、見(ん)じいどぅんしえ、汝(いゃあ)がくぬ世(ゆ)んかい生(ん)まりたしん、鬼から人ん達、守らすんでぃぬ天ぬ考えぬあてぃどぅやる筈(はじ)。あんどぅんやれえ、しこおてぃ、行ちゅるぐとぅ」

「我(わあ)が一(てぃい)ち食(か)みいねえ、百たいぬくんちぬ出(んじ)ゆんでぃ言る団子(だあぐ)、作(ちゅく)てぃ持たすん。鬼ん達、必(かんな)じ打ち負かち来ゅうるぐとぅ」んでぃ婆前ん言ゃびたん。

　桃太郎や婆前がしこおてぃ持たちぇえる団子、腰(くし)んかい下(さ)ぎてぃ京んかい向(ん)かやびたん。道ぬ中、やあさぎさあそをる犬(いん)ぬ桃太郎ぬ傍んかい寄(ゆ)ゆてぃ来ゃあびたん。

「さり、桃太郎前さり、腰んかい下ぎとをる団子、我にんかい一ちえ呉(くぃ)てぃうたびみせえいびり」

「京ぬ人ん達、苦しみとをる鬼ん達、我とぅまじゅん、追(ゐ)い払(ほお)いが行ちゅらあ、あぎやびいん」

　あんさあに、うぬ犬や桃太郎とぅまじゅん、行ちゃびたん。うぬ後ぬ道中うてぃ、雉子(きじ)ん猿(さある)ん、いぬぐとぅ桃太郎ぬ臣下(しんくゎ)ないびたん。うりから、桃太郎達や鬼が島ぬ見ゆる浜んかい下(う)りやい、舟頭主(しんどぅうしゅう)頼でぃ、鬼が島んかい渡やびたん。

　鬼ぬ屋敷ぬ門(ぞう)や強々く閉(し)みらっとをいびいたしが、猿ぬ跳(とぅ)んじゃあに中んかい入っち、中から鈎(さあし)、外(は)んすしとぅまじゅん、桃太郎達やいっさん走(ば)あええさあに屋敷(やしち)ぬ中んかい入やびたん。夕(ゆ)びぬ酒(さき)ぬ、なあだ残(ぬく)てぃ酔(ゐ)いぐりとをたる鬼ん達や寝(に)んとをるとぅくる、犬なかい噛まったい、猿なかい掻ちゃまったい、また、雉子なかい突(ち)ちかったいさびやあい、何(ぬう)がくぃいやらむさっと分からんふうじやいびいたん。諸(むる)、どぅくそう抜(ぬ)ぎてぃ、自(どぅう)なあ達ぬ船(ふに)んかい逃(ひん)ぎゆんでぃち海んじ、んぶくぃゆしん居いびいたん。また、逃ぎ遅(うく)りてぃ、ええずうぬ船んかい乗いゆうさんたる鬼ん達や桃太郎達なかいかちみらってぃ、綱(ちな)なかい縛(たば)らってぃ、屋敷ぬ庭(なあ)んかい揃(すら)あしみらりやびたん。

　桃太郎が鬼ん達、ぬれえ懲(く)くるする言葉なかいようやく、意味ん分かたる鬼ぬ大将(てえしょう)や涙(なだ)くるくるうし、「我(わっ)達(たあ)が悪っさいびいたん、どうでぃん逃があらちたぼうり。我達や自ぬ元ぬ国んかい帰(けえ)やびいくとぅ命(ぬち)びけえや助(たし)きてぃうたびみせえびり」んでぃ伏してぃ詫びやびたん。

「じょおいならん、いっ達が今までぃ、くぬ国うとおてぃ、ゆむくとぅし来ゃしえ詫びてぃ逃があらさりいるむぬおあらん。一人(ちゅい)ん残(ぬく)らん京んかいすびち行(ん)んぢ、役人んかい渡すん」

　鬼ぬ大将や慌てぃやびたん。立ったんでぃさびたしが、足んくんだってぃる居くとぅ、如何(ちゃあ)んならん、けえ倒(とを)りやびたん。

　うぬ日、町方ぬ人達や鬼ん達がからみらったんでぃ言る話、聞(ち)ち、でえじな、うむさあくぁったあし、すうじしゃんでぃぬくとぅやいびいん。

 「実践うちなあぐち教本」から

註：くぬ物語ぬ日本語版や、うちなあぐち版とぅまじゅん、『うちなあぐちしさびら物語小＆スピーチ』（２００８年６月発行、南謡出版）んかい集録さっとをいびいん。またくぬ本ぬんかいや音声ＣＤぬ付録とぅさあい付ちょをいびいん。
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