2016年11月27日

第173講「かみ・かみゆん」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 昔(んかし)ぬ魚売(いゆう)やあ女(ゐなぐ)お、かみ商(あちね)えし、歩(あ)っちょおたん。
A 寒(ふぃい)さぬ、茶(ちゃあ)やかみてぃから、飲(ぬ)むし(せ)えましどお。
B 闘牛(うしおおらせえ)んじえ突(ち)ちかみらりいねえ、なあ、うっさやさ。
C 山羊(ふぃいざあ、ひいざあ)ぬん、人(ちゅ)かみゆる事(くとぅ)んあん。
D 柱(はあや)んかい頭(ちぶる)かみいねえ、があなあぬ出(ん)じゆんどお。
E 酒癌(さきがく)がやら、腸(わた)かみらってぃふしがらん。
F かみちやれえ、早(ふぇえ、へえ)く、医者(いしゃ)んかい診(み)しゆし(せ)えまし。
G 彼(あり)え、天井(てぃんじょう)かみゆるあたい、丈(たき)ぬ高(たか)さん。
H 父(すう)や女(ゐなぐ)ん子(ぐぁ)、所帯(すうてえ)かみらち、うみなあくそおん。

日本語

@ 昔の魚売り女性は品物を頭の乗せて行商をしていた。
A 寒いし、お茶は温めてから飲むのが良いよ。
B 闘牛では、(牛は)突き上げられたら、もうそれまでだ。
C 山羊でも人を突くことがある。
D 柱に頭をぶつけると、たんこぶが出るよ。
E 胃がんなのか、胃腸に鈍痛があってしょうがない。
F 胃痙攣なら、早く医者に見えたほうが良い。
G 彼は頭が天井を着くほど、背が高い。
H 父は娘を嫁にやり、ほっとしている。

【解説】
例文@「かみ商え」は、「品物(主には魚類)を入れた笊(ばあき)を頭に乗せて行商すること」です。
例文@「茶かみゆん」は、「お茶を温める」意味です。
例文A「突ちかみゆん」は「(角などで)突き上げる」の意味です。ここでは、単に「かみらりいねえ」でも同じ意味になります。
例文B「人かみゆん」は「人を突く」の意味です。
例文D「頭かみゆん」は「(何かに)頭をぶつける」の意味です。
例文E「腸かみゆん」は「胃腸が突き上げられるような鈍痛がする」という意味になります。
例文F「かみち」は「胃痙攣」の意味で、「かみゆん」から派生した名詞です。例文にはありあませんが、「かみらりやあ」は「胃痙攣持ち(胃痙攣の持病の持ち主)」という意味です。
例文G「天井かみゆん」は本来的には「天井を頭に乗せる」ですが、「頭が天井に着く」という慣用的意味になります。
例文H「所帯かみらすん」は「所帯を持たす」意味から転じて「嫁にやる」の意味です。

【応用問題】
例文・解説文を参考に次文の「かみゆん」に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(天井んかいや行逢ゃらん、頭んかい乗してぃ、温ちらち、ふぃいぬ痛むくとぅ、突ち飛ばさってぃ)

@ あん小(ぐぁあ)や、かみてぃ、うり売(う)いが(「谷茶前節」より)。
A 腸(わた)ぬかみらりいくとぅんでぃちん、酒(さき)がくやるむぬ(の)おあらん。
B ミルクんかみてぃ、飲(ぬ)だれえ、体(からた)ん温(ぬく)たまやびたん。
C ちゃっさ、程(ふどぅ)ゐいとおんでぃ言(い)ちん、天井(てぃんじょう)迄(まで)えかみらん
D くねえだ、車(くるま)なかい突(ち)ちかみらってぃ、死(し)にがたあ回(まあ)とおたん。
答え:
@ 頭んかい乗してぃ。
A ふぃいぬ痛むくとぅ。
B 温ちらち。
C 天井んかいや行逢ゃあらん。
D 突ち飛ばさってぃ。

日本語意訳
@娘が頭に乗せてをそれを売りに。
A胃腸に鈍痛があるからといって胃がんだと限らない。
Bミルクを温めて飲んだら、良いのだ。
Cいくら成長したからといって、天井迄は届かない。
Dこの間、車に撥ねられ、死にそうになっていた。

2016年11月19日

第172講「かみ・かみゆん」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 正月(しょうぐち)かみてぃ、うんじゅなあ達(たあ)百(むむ)果報(がふう)願(にが)やびら。
A 御祭(うまちい)んかい行(い)ちゆさんたる人(ちゅ)んかいや花米(はなぐみ)かみらせえ
B 徳(とぅく)かみとおる人(ちゅ)ぬ寄(ゆし)し事(ぐと)お、良(ゆ)う聞(ち)ちゅし(せ)えまし。
C 物食(むぬか)むる前(めえ)ねえ、御(うめ)箸(えし)かみてぃ、三拝(にふぇえ)拝(うが)みわるやる。
D 父(すう)や取(とぅい)い破(やん)てぃ、笑(わら)やがなあ手(てぃい)かみとおみたん
E 贈物(うくいむん)かみらちうたびみしょうち、三拝(にふぇえ)でえびる。
F 夫婦(みいとぅんだ)あ共(とぅむ)に白髪(しらぎ)かみゆる迄(までぃ)、愛々(かながなあ)とぅしわるやる。
G 御香(うこう)かみてぃ、仏壇(ぶちだ)ぬんかい手押(てぃいう)さあちゃん。

日本語

@ 正月を迎え、皆様方のご多幸を祈願いたします。
A 穂祭に行けなかった人には頭に御花を乗せなさい
B 徳を備えている方の教え良く聞くべきである。
C 食事の前に箸を持ち上げ、感謝を述べるべきである。
D 父はしくじって、笑いながら頭を掻いていた
E '''贈り物を頂きまして、感謝申し上げます。
F 夫婦は共に白髪を授かる迄、仲良くすべきである。
G 香を供えて、仏壇に手を合わせた。
  
【解説】
「かみゆん」は首里語系。多くは「かみいん」です。「頭に頂く」「頭に乗せる」等の意味から、文例のような色々な意味に転じています。例文を参考に関連の造語をつくる事も可能です。尚、「かみゆん」の習慣は本島今帰仁辺り迄で、それより北部では「はさぎいん」(紐の付いた背負い籠を頭から下げる)の習慣に変わります。

例文@「正月かみゆん」は「正月を迎える」ですが、あくまで慣用的意訳です。「迎える」の意味としては人その他に使いません。例えば、「人かみゆん」は「人を迎える」ではなく、次講にあるように「人を突く」意味になってしまいます。
例文A「花米」は「御花(みはな)」とも言い、御願(うぐぁん)(神事)をする時に使う米で清める効果をあるされています。
例文C「徳かみゆん」は「徳を授かる」、「得が備わる」の慣用的意味。単独では「授かる」、「備わる」等の意味はありんません。
例文D「手かみゆん」は直訳では「手を頭に乗せる」ですが、この場合は「頭を手で掻く」の意味です。
例文E「贈物かみゆん」は「贈り物をいただく」の意味です。「頭に乗せる」という仕草が連想されますので、恭しく頂くのニュアンスになります。
例文F「白髪かみゆん」は、白髪を老化と捉えず、「天下の授かり物」とする発想から「白髪を授かる」と訳します。
例文G「香かみゆん」は直訳は「香を頭に乗せる」ですが、この場合は「香を供える」の意味となります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の「かみゆん」に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(頭んかい乗してぃ、拝でぃ、置ちきてぃ、儲きてぃ、生いとおる)

@ 花(はな)や露(ちゆ)頂(かみ)てぃ、摘(む)いやならん(「貫花」より)。
A 働(はたら)ちゃあに、銭(じ)ぬん、かみてぃ、めんそおれえ。
B 美公事(ゑえだい)かみてぃ、うりやかぬ果報事(かふうぐとぅ)や無(ね)えやびらん。
C かみてえるあたら白髪(しらぎ)、染(す)みいし(せ)え、如何(ちゃあ)がやら。
D 二(にん)合(ごう)やうたびみそり、かみてぃ、みぐやびら(「サフエン節」より)。
答え:
@ 置(う)ちきてぃ。
A 儲(もう)きてぃ。
B 拝(をぅが)でぃ。
C 生(み)いとおる。
D 頭(ちぶる)んかい乗(ぬ)してぃ。

日本語訳
@花は露に濡れて、摘むことはできない。
A働いて金を稼いで、いらっしゃい。
B官職を賜り、これほど幸せな事はございません。
Cせっかく生えた白髪を染めるのはどうだろうか。
D(酒は)二合ばかりください、頭に乗せて巡りましょう。

2016年10月27日

第171講「今(なま、いま、なあ)」に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 今(なま)ちきてぃ、誰(たあ)ん来(く)うんでえ、ふぃるましいむんやさ。
A 彼(あっ)達(たあ)あや、ちゃあ、今々(なまなま)あし、人慌(ちゅあわ)てぃらかすん。
B 今(いま)前(めえ)ぬ若者(わかむん)ん達(ちゃあ)や、今(なま)ん今(なまなま)ん、考(かんげ)え様変(ようけ)えゆん。
C 今(なま)ぬ如(ぐとぅ)今通(なまどぅう)いそおちねえ、何(ぬう)んあらん。
D 今(なま)でぃいから来(く)ん、なあ、掛(か)き合(あ)あらんどお。
E 今(く)(此)ぬ頃(ぐる)んしいや、実(じゅん)に異風(いふう)な一件(いっちん)ぬまんどおん。
F 汝達母(いったああんまあ)やてぃから、今方(なまがた)、戻(むどぅ)てぃ走(は)いたしが。
G 今先(なまさち)ぬ騒(さわ)じ事(ぐと)お、今(なあ)だ如(ぐとぅ)、起(う)くりたる事(くと)お無(ね)えんたん。
H 汝番(やあばん)や今(なま)とぅいやあらんくとぅ、待(ま)っちょおけえ。

日本語

@ 未だに誰も来ないとは、珍しいことだ。
A 彼等は何時も、至急だと(言って)、人を慌てさせる。
B 現代の若者は、次々と、考え方を変える。
C このように従来通り、やっておけば、何の問題も無い。
D 今頃、来たって、もう、間に合わないよ。
E この頃は、本当に妙な事件が多い。
F 君達の母なら、今しがた戻って行ったけど。
G さっきの騒動は、今だ嘗て起きた事は無かった。
H 君の番は、今直ぐではないから、待っておけ。

【解説】
 「今語(なまくとぅば)」の慣用句や言い回しは、沖縄語辞典』では殆ど紹介されていませんが、多く使われています。「今頃」、「今迄」等、分かり易い語は省きます。

例文@「今ちきてぃ」は「今だに」、「今に至るまで」などの意味です。
例文A「今々あ」は「緊急」、「至急」等の意味です。「みすみす〜」を意味する「なまなまあとぅ〜」という副詞がありますが、「今」に関する語であるかについては不明ですので、ここでは意味だけの紹介に止めます。
例文B「今前」は「近年」、「最近」、「現代」等の意味です。「今ん今ん」は「次々に」、「どんどん」、「間髪を入れず」、「目まぐるしく」等の意味です。訳語はそのようなニュアンスで、文脈で決めましょう。
例文C「今ぬ如」は「このように」等の意味で「なまねえし」とも言います。「今通い」は「今迄通り」、「従来通り」。
例文D「今でぃい」は「(予定より)遅く〜(しても)」、「今になって(しても)」等の意味です。
例文E「今ぬ頃んしい」は「今ぬ頃んせえ」、「今頃」とも言います。ここは「今」を当てていますが、「此」でも可です。
例文F「今方」は「今しがた」の意味で、「今先(なまさち)」でも代用できます。
例文G「今だ如」は否定文を伴い「いまだかって〜(し)ない」という意味です。「今だ如やたん」と単独で使う場合も「今だ嘗てなかった事だった」の意味になります。
例文H「今とぅい」は「今直ぐ(ではないこと)」の意味の名詞で、否定文が続きますので使い方は用注意です。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の太字部分の意味に近い語句を左の( )内から選びなさい。
(今々あ、今とぅいや、今ん今ん、今だ如、今でぃい)

@ 彼(あり)え、今(なま)ん、来(く)うんどお。
A 母(あんまあ)や本土(やまとぅ)んかいや、今迄(なままでぃ)、行(ん)じえんだん。
B あんし、慌(あわ)てぃはあてぃいしみいねえ、考(かんげ)えゆるまどぅん無(ね)えん。
C 決(ち)わみ事(ぐと)お、ぞうふぃた、変(け)えらんけえ。
D 祝儀(すうじ、しゅうじ)え、未(なあ)だ、始(はじ)まらんくとぅ、よおんなあ行(い)かな。
答え:
@ 今ちきてぃ。
A 今だ如。
B 今々あ。
C 今々ん。
D 今とぅいや。

日本語意訳
@彼は未だに来ないよ。
A母はいまだ嘗て、本土に行った事はない。
Bそんなに、急いでさせたら、考えるゆとりもない。
C決め事は、しょっちゅう、変更するな。
D祝宴は未だ始まらないから、ゆっくり行こうよ。




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