第44講 接続文「―しないと、―」T

日本語

@ 君がしないと(やらないと)、誰がやるのか。
A 沖縄語も習わないと、いけないよ。
B 台風が来ないと、珊瑚は死滅してしまうけど。
C 薬を飲まないと、良くならないよ。
D 早く決めないと、はかどりません。

うちなあぐち

@ 汝(やあ)がさんでえ、たあ誰がすが。
A うちなあぐちん、習(なら)らんでえ成いびらんどお。
B 台風(ううかじ)ん、来(く)うんでえ、珊瑚(さんぐ)お、けえ死(し)ぬしが。
C 薬飲(くすいぬ)まんでえ、ましえならんどお。
D 早(ふぇえ)く、決(ち)わみらんでえ、めえ前(めえ)あがちん成いびらん。

【解説】
 「―しないと、―だ、(又―する)」という意味の構文に相当する「―(ん)でえ」は、実際は「―動詞未然形+否定助動詞(ん)+んでえ、―」つまり、「―さ+ん+んでえ」という形ですが、「ん」の連続を嫌って、例文のような文型になっています。この講では太字は「でえ」の部分のみにしておきました。第21講の「―(ん)でぃ」の場合も「ん抜」きの「―でぃ」にしてもあります。なお、この「でえ」は、日本語の「―でないと」、「―しないと」等における「と」に対応する接続助詞「でぃ」にヤ系係助詞「え」が付き「でえ」(日本語の「とは」)となったものと考えられます。ただし、「―だらあ」(第46講応用問題等参考)の約まったものであるする人もいます。
意味がほぼ同じ構文に「―とお、―」(第45講)、「―あれえ、―」(第46講)、「―さんだらあ、―」(強調助詞が絡む「―さんどぅんあれえ」が約まった言い方)等もあります。沖縄語の話者達は無意識の内に普通にこれらの言い方をしていますので嫌でも覚えておく必要があります。

例文A「習らんでえ」は「習あんでえ」でも構いません。参考第29講。
例文D「決める」は、日本語風に「ち決みゆん」等と使う人もいますが、「ちわみゆん」が正しいです。「前あがち」は「(働く事が)前進する事、はかどる事」の意味で、「あがちゅん」は「労働する、はかどる」という意味があります。
  
【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。答えは下欄です。
@ 晴(は)りらんでえ、洗(あれ)え衣(じん)のお、乾(かあ)らちゃびらんどお。
A 夏(なち)ぬ夜(ゆる)お、クーラー点(ち)きらんでえ、寝(に)んだりやびらん。
B 誂(あちれ)えらんでえ、品(しな)あ作(ちゅく)やびらん。
C 人(ちゅ)ぬ揃(すり)らんでえ、商(あちねえ)えや、成(な)いびらん。
D 彼(あり)え、あぎまあさんでえ、何(ぬう)んさんしが。
答え:
@ 晴れないと、洗濯物は乾きませんよ。
A 夏の夜はクーラーを点けないと、眠れません。
B 注文しないと、品物は製作しません。
C 人が集まらないと、商売はできません。
D 彼は急かさないと、何もしないけど。
  

第43講 接続文「あれもする、これもする」

日本語

@ あれもしようこれもしようで、目眩がする。
A 本も読もう新聞も読もうで、忙しい。
B 散髪もする髭も剃るで、焦るよ。
C 今日は木も切る草も刈るで、忙しい一日だよ。
D 眼科にも行く歯医者にも行くで、うっとおしい。

うちなあぐち

@ ありん、さやあ、くりん、さやあ、目暗(みいくら)がんそおん。
A 書物(しゅむち)ん読(ゆ)まやあ、新聞(しんぶん)ぬん読(ゆ)まやあ、忙(いちゅな)さん。
B 断髪(だんぱち)ん詰(ち)みらやあ、髭(ふぃじ)ん剃(す)らやあ、焦(あし)がちすっさあ。
C 今日(ちゅう)や木(きい)ん切(ち)らやあ、草(くさ)ん刈(か)らやあ、忙(いちゅな)しむんやさ。
D 眼屋(みいやあ)にん行(い)かやあ、歯屋(はあやあ)にん行(い)かやあ、あんましむん。

【解説】
 「ありんさやあ、くりんさやあ」は日本語に訳する事は難しいですが、「あれもしたり、これもしたりで」等と訳します。逆訳すると、「ありさい、くりさい(あれをしたり、これをしたり)」(参考第23講)、「ありんすん、くりんすん(あれもする、これもする)」など複数の候補文がでてきてしまいそうです。この場合の「やあ」は接続助詞です。「ありんさあやあ」と単文になると、末の「やあ」が感嘆詞となり、「あれをしようねえ」という意味になってしまいます。(『沖縄語辞典』には、この「やあ」のこのような使い方に関する説明はありません。)

例文@「目暗がん」は、「くくとぅみんぐぁあ」、「くくとぅみんぐぃい」とも言います。
例文A「新聞ぬん」の表記については、「はじめに―本書における表記法の考えと運用」をご参照ください。
例文B「散髪する」は慣用的に「断髪詰みゆん」と言います。

【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@ 乳(ちい)ん飲(ぬ)まさやあ、檻褸(かこう)ん替(け)えらやあ、若(わか)あんまあたあや忙(いちゅな)しむんやんやあ。
A 文(ぶ)ぬん書(か)かやあ、意味(ちむええ)ん調(しら)びらやあ、自一人(どぅうちゅい)し、諸(むる)さんでえならん。
B 墨(しみ)ん習(なら)らやあ、塾んかいん行(い)かやあ、今(なま)ぬ童(わら)ん達(ちゃあ)や、遊(あし)ぶる暇(ふぃま)ん無(ね)えやびらん。
C たんかあゆうゑえ祝え(註)んじ、あか赤んぐぁ子ぬ、ありんとぅ取らやあ、くりん取らやあ、うか可笑しいむんやさ。
D こおぐ(註)んま曲がらやあ、歯(はあ)ん抜(ぬ)ぎらやあ、歳(とぅし)え、取(とぅ)い欲(ぶ)しゃくん(欲さくん)無(ね)えらんむんやさ。
答え:
@ 乳もあげる、おしめも替えるで、若い母親達は忙しいもんだねえ。
A 文も書く、意味も調べる、全部、自分ひとりでしなければならない。
B 習字も習う、塾にも行くで、今の子供達は遊ぶ暇もないです。
C 満一年祝いで、赤ん坊は、あれも取るこれも取るで、可笑しいこと。
D 腰も曲がる、歯も抜けるで、年は取りたくないものだよ。

注:「たんかあ祝え」は「満一年の誕生祝い」。机や敷物の上に飯、算盤、鉛筆、お金等、様々な品を並べて赤ん坊に取らせます。取った品によって、赤ん坊の将来や性格を占います。この風習は朝鮮半島にあるようです。「こおぐ」は「こおぐ曲がゆん、曲がとおん」等の慣用句で用います。「腰ぬ曲がとおん」とは言いません。

第42講 接続文「―しながら、―する」Uを表わす「(や)がちい」

日本語

@ これは話を聴きながら、書いたものです。
A 歌は労働しながら、歌うものですよ。
B 酒を飲みながら、煙草はす吹わないで。
C 民謡を習いながら、沖縄語の勉強をしています。
D 彼女は映画を見ながら、涙を流していました。

うちなあぐち

@ くりえ、話聴(はなしち)ちゃがちい、書(か)ちゃるむぬやいびいん。
A 歌(うた)あ仕事(しくち、しぐとぅ)さがちい、歌(うた)ゆるむんやいびいんよお。
B 酒飲(さきぬ)まがちい、煙草(たばく)お吹(ふ)かんけえ。
C 葉唄(ふぁあうた)習(なら)いがちい、うちなあぐちぬ勉強(びんちょう)そおいびいん。
D 彼女(あり)え、影踊(かあがあをぅどぅ)い見(ん)じゃがちい、涙落(なだう)とぅちょおたん。

【解説】
 「―ながら、―する」という文は、前講の「―がなあ」もこの「―がちい(がしい)」も殆ど同じ意味です。後者は副詞を作る接尾語「なあ(本来は「―づつ」の意味)」を付ける事によって、その文があたかも副詞であるかのようになります。地方によっては、「―ちい」が「―しい」になります。「―がなあ」同様、存在動詞「やん」が絡んでいるため、地方によっては、「やん」の連用形「や」が「い」に変形し、「―いがちい、―いがしい」という形になります。(「や」が「い」に変形する例:ややびいん→やいびいん)。

例文@ 「むぬやいびいん」は、「むんやいびいん」でもよいです。
例文A 「仕事さ」の「さ」は「しや」の変形です。
例文B 「酒飲みいがちい」でも良いです。「飲ま」の「ま」は「飲みや」の変形と考えられます。
例文C 「習いがちい」は「習やがちい」とも言います。「葉唄」は今では定着した「民謡」でも良いしょう。
 なお、以下は「なあ」を付けた場合を含む表現の別形で例文順に、
聴ちゃがちいなあ、聴ちいがちいなあ、聴ちいがしいなあ、聴ちゃがしいなあ、さがちいなあ、しいがちいなあ、しいがしいなあ、さがしいなあ、飲まがちいなあ、飲みいがちいなあ、飲みいがしいなあ、飲まがしいなあ、習やがちいなあ、習いがちいなあ、習いがしいなあ。習やがしいなあ、見じゃがちいなあ、見じいがちいなあ、見じいがしいなあ、見じゃがしいなあ。

 また、語尾に「なあ」を使う副詞の例には、「ようんなあ」、「ひっちいなあ」、「うさきいなあ」、「くうてんなあ」等があります。

 
【応用問題】
 本講を参考に、次の沖縄語文の接続文を「―しながら」という文に直しなさい。
@ 妻(とぅじ)え赤(あか)ん子(ぐぁ)賺(しか)ち、檻褸(かこう)ん替(け)えとおたん。
A わじわじいし、叫(あ)びゆるむのぬおあらん。
B くぬ病(やんめえ)や薬(くすい)飲(ぬ)でぃ、治(のお)さびいさ。
C 良(ゆ)う、考(かんげ)えやあい、あがけえ。
D あがねえし、銭(じん)やじん貯みり。
答え:
@ 妻え赤ん子賺さがちい(なあ)、檻褸替えとおたん。
A わじわじいさがちい(なあ)、叫びゆるむぬおあらん。
B くぬ病や薬飲まがちい(なあ)、治さびいさ。
C 良う、考えやがちい(なあ)、あがけえ。
D あがねえさがちい(なあ)、銭(じん)や貯(た)みり

日本語訳 
@妻は赤子をあやしながらオムツをかえていた。
A怒りながら、喋るものではない。
Bこの病気は薬を飲みながら、治しますよ。
C良く考えながら働け。
D倹約しながら、お金を貯めよ。




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