沖縄タイムス「唐獅子」掲載 提供 有限会社 南謡出版
比嘉 清 ホームへ戻る  うちなあうち賛歌  
かなっとをかりよ  (掲載2007.6.20)
日本語版 うちなあぐち版
 
 ほぼ毎年、新暦の正月には、祖先が祀られているという旧玉城村のS家に参拝に行く。叔父自身も、年配だが、席を立つときは、きまって、S家の人々に、「かなあっとをかりよ」と挨拶する。受身の形をした尊敬語であるが、「お元気で」ぐらいに訳した方が無難だ。

与勝半島には、「みせえん」とともに、「(ら)りいん」(例えば、「医者やらりいん」)という「受身形」をした尊敬語が残る。日本語の「れる」「られる」と同じ用法である。主に、第三者のことを言う場合に用いるが、「かなあっとをかりよ」は、直接、相手に言う。あるサークルで、話題にしたら、「田舎敬語では?」だと片付けられたが、一応は知られてはいるようだ。

さて、うちなあぐちの敬語(尊敬語、丁寧語、謙譲語)は、「難しい」というイメージが先行している。そのために、うちなあぐちの勉強を遠慮する人もほどだ。うちなあぐち敬語のルールは、日本語ほどにはうるさくない。用法は、あいまいでなく、「てにをは」を覚える程度の能力さえあれば、決して難しくない。本来、尊敬語の習得には、目上の者を交えて、会話を重ねることが大切なのだが、そうした機会が少ないため、自信を持てなくなっているのも確かだ。

ただ、習得しようと思えば、資料には事欠かない。特に、敬語を学ぶには、少し古いが、『沖縄對話』(沖縄県、一八八〇年)も適している(本来、日本語教科書であるが、うちなあぐち敬語が多く使われており、それらを習得する「教科書」としても活用できる)。また、図書館によっては、音声資料や沖縄芝居のビデオテープなどの映像資料も揃っている。愛好家や研究家による刊行物も増えている。言語資料の蓄積は進んでいるのだ。

だが、資料が充実しているわりに、一般には、それほど、活用されているとは思えない。県民の、うちなあぐちへの愛着心は、衰えていないが、学習や実践には至らないのが現状だ。原因のない「現状」はない。  

資料の体系化や利用しやすい環境作り(資料情報の共有化など)、を含め、うちなあぐち復興の取り組み全般について、改革する必要はないのか。誰もが、「わが言語」だと関心を抱き、実践する意欲をかき立てるために。

 
注:字数等の関係で「唐獅子」と文言が違うところが若干あります

 
 いいくる毎年(めえにん)、新暦(しん)ぬ正月(しょうぐゎち)ないねえ、祖先(うやふじ)ぬ祀(まち)らっとをんでぃ言ゃっとをる旧玉城(たまぐしく)ぬS家んかい手(てぃい)うさあしいがが行ちゅん。叔父(うざさあ)くるん、年寄(とぅす)いやいやすしが、家(やあ)とぅめえゆるばすお、いいくる、S家ぬ人んちゃあんかい、「かなあっとをかりよ」んでぃち挨拶(ええさち)すん。受身ぬ形そをる尊敬語やしが、日本語んかいや「お元気で」んでぃち訳そをかな。

与勝半島んかいや、「みせえん」とぅとぅむに、「(ら)りいん」(例れえ、「医者やらりいん」)んでぃゆる「受身形」ぬ尊敬語ぬ残(ぬく)とをん。日本語ぬ「れる」「られる」とぅ同(い、ゆ)ぬ用法やん。いいくる、第三者ぬくとぅ言るばすに使(ちか)ゆるむんやしが、「かなあっとをかりよ」や、たんかあなてぃ言ん。あるサークルんじ、話題んかいされえ、「田舎敬語やあらんがや?」んでぃち、片付(かたぢ)きらったしが、てえげえや、知らっとをいぎさん。

さてぃ、うちなあぐちぬ敬語(尊敬語、丁寧語、謙譲語)や、「難(むちか)さん」んでぃゆるイメージぬ先走(さちば)いそおん。うぬたみなかい、うちなあぐちぬ勉強(びんちょう)うけえ思いそをる人(ちゅ)ん居(をぅ)るあたいやん。うちなあぐち敬語ぬルールお、日本語やかや、かしまさあねえらん。用法(使え様)や、受き取(とぅ)いぐりさぬむぬおあらな、「てにをは」覚(うび)いゆうするあたいぬ能力(てえ)ぬあれえ、じょうい難しこおねえらん。実(じゅん)にやれえ、尊敬語習ゆるたみねえ、しいざ方とぅちゅまなてぃ、言ちゃいはんちゃい重にゆるくとぅがる大切(てえしち)やしが、うんな機会ぬ少(いきら)さるたみなかい、自信持ちゆうさんなとをるくとぅん確かやん。

ただ、習ららんでぃ思いねえ、資料や不足(ふすく)おねえらん。かわてぃ、敬語勉強すぬたみやれえ、いふぇえ古さしが、『沖縄對話』(沖縄県、一八八〇年)んましやん(本来、日本語教科書どぅやしが、うちなあぐち敬語ぬ多(うふ)く使あらっとをい、うり習ゆる「教科書」とぃしん活用なゆん)。また、図書館にゆてえ、音声資料、沖縄芝居(しばや)んでえぬビデオテープんでえぬ映像資料んゆう備(すな)わとをん。愛好家、研究家んでえが作(ちく)たる刊行物ん増(うわ)あちょをん。言語資料ぬ蓄積え前あがちそをるばすやん。

やしが、資料ぬまんでぃ居たんてえまん、てえげえや、あんすかあ、活用さっとをんでえ思あらん。県民ぬ、うちなあぐちかなさすぬ肝持(ちむぬ)ちえ、衰(うとぅり)てえをぅらんしが、習たい実践さいすぬくとぃんまでえ、なてえををぅらん現状やん。原因ぬねえらん「現状」やねえらん。  

資料ぬ体系化とぅか使(ちけ)えやっさんねえしすぬ環境作ええ(資料情報ぬ共有化んでえ)添(し)いてぃ、うちなあぐち復興ぬ取い組み全般にちいてぃ、改革すぬ必要やねえらんがや。誰(たあ)がん、「いが言語」どぅやるんでぃぬ考え持っち、実践すぬ肝持ち、はねえかするたみなかい。