沖縄語表記論の検証
「うちなー」等の長音(棒引)使いに見る沖縄語観
創作活動を前提としない単なる方言としての位置付け
普及活動レベルを左右する
  
    〈関連ファイル 沖縄語表記論 語彙論沖縄語の七不思議
                                        2004.11.10 吉屋松金

実践うちなあぐち教本 うちなあぐち 日本語











■はじみに 

一、「沖縄」ぬ表記なかいや、「うちなあ」ぬ(ふか)なかい「うちなー」「うちなぁ」ぬあん。くぬうち「うちなー」ぬてえげえ、(うふ)使(ちか)あらっとおしが、うちなあぐちゆ一言語(独立言語)とぅすぬ立場(たちふぁ)からくぬ表記(書ちい様)やじゅんにやみ、あらにんでぃぬくとぅにちいてぃ考えてぃ(にい)()しゃん。

二、また、うちなあぐち表記(ひゅうち)え日本語表記んじ使(ちか)あらっとおるひらがなとぅか漢字(くぁんじ)、借とおるむんやくとぅ、うぬ表記(りい)(かた)とぅさんでえ成らんむんでぃち考えとおん。(びち)仕様(しいよう)なかい表記するむんやれえ、くれえまた、(なま)までぃとお違とおる理屈(でぃくち)なかいするむんやくとぅ、うぬくさてぃとぅ成いるむん語らんでえならん。あんそおるくとぅなかい別ぬ表記法ゆ(しん)に、しこうゆる難儀(なんじ)考いねえ日本語表記法んかい倣ゆるくとお、いっぺえ分かい易っさんあい、またシンプルやる表記法やん。

三、また、カタカナ表記え、いいくる外来語とぅか発音(はちうん)表記んかい使あらっとおくとぅ、くまうとおてえ、語らん(カタカナぬ使え様ん、日本語んかい倣ゆん)

 

■長音表記とぅしちぬ棒引ち表記ぬ役割とぅ意味

「うちなー」表記にちいてぃ語ゆる(めえ)に日本語から吟味(じんみ)し、んちんだ。

 

「おかあさん」「おかーさん」「おかあさーん」ぬばす

「おかあさん」ぬ発音や「オカーサン」やん。やしが「おかーさん」でぃち書かんしえ、棒引ち表記が日本語んじえ臨時()ばし音表すむんとぅし使ありいるむぬ成てぃ、単語(たんぐ)ぬ基本音表すむんとぅしえ使あららんくとぅどぅやる。(たとぅ)れえ、「おかあさーん」ぬ「さーん」や、うふあびいそおる音〈臨時〉表わちょおるむん成てぃ、「おかあさーん」んでぃゆる単語ぬあるわけえあらん。くんぐとぅうし、日本語うとおてぃぬ棒引ち表記え、まあまでぃん臨時伸ばし音どぅやくとぅ、くり(はん)ちぇえる「おかさん」や、なあ「おかあさん」んでぃ言る意味とぅしえ考えららん。まあまでぃん「おかあさん」がる固定音(基本音)とぅしちぬ単語やる。

なあふぃん、例()じゃしいねえ、日本語ぬ「おい」や辞典んかい()とおる単語お、やしが、「おーい」や「おい」とお別ぬ単語やあらな、棒引ち表記(臨時伸ばし音)ぬ無えらんてぃん「おい」でぃぬ意味ぬ変わゆるむぬおあらん。あんやくとぅ、棒引ち記号「ー」や正規音外(うゎあば音)表すしんかい使あらりいるむんどぅやる。

くんぐとぅうし棒引ち表記ゆ臨時音表記とぅさあい使ゆるばすお(あとぅ)ぬ通いぬ()わみぐとぅぬあん。

 

 

臨時音(棒引ち表記)ぬ法則(決わみぐとぅ)

一、基本音(正規音)とぅ分きゆるたみぬむぬやん。

二、(はん)ちん語ぬ意味合(いみええ)や同ぬむん。

三、国語語彙とぅしちぇえ考えらってえ無えらんあまくまぬ方言表記んかいや棒引ち記号が使あらっとおん(元々、標準語語彙とぅさあい考えらってえ無えらん方言ぬばあや、しいてぃまでぃん基本音とぅ臨時音、分きゆる必要や無えらんくとぅどぅやるんでぃち考えらりいん)

* また、臨時音記号や慣例的に棒引ち記号ぬ他なかい、母音ぬ小文字とぅか、「〜」記号んでえぬ使あらっとおん。

 

基本音(固定音)表記(標準語表記)ぬ法則

 一、音表する文字し表すん(棒引ち・波線等んでえねえし音持っちぇえ無えらん記号や使らん)

 二、単語(固定音)とぅさあい定まとおる単語ぬ長音や前ぬ音ぬ母音段音(かさ)にゆん。やしが前ぬ音がオ段ぬばすお「う」また「お」ぬ二通(たとぅう)いあん(前ぬ例や「おとうさん」、後じいぬ例や「とおり〔通り〕」やん)

 

 

 

■表記「うちなー」ぬ吟味

あんしいねえ本題ぬ「うちなー」ぬ表記にちいてぃ、日本語表記法んかい、はみいがちい吟味(じんみ)しんだな。

 

「うちなー」や「うちな」ぬ伸ばし音やあらな、むるし固定(基本)音

一、「うちなー」ぬ「うちな」や基本音成てぃ「ー」や基本音やあらんでぃぬくとぅんかい成ゆん。

二、「うちなー」から「ー」省んちぇえる「うちな」やれえ、意味え通じらん。発音上ぬ「ウチナー」や、うぬむるが固定音やくとぅ、後じいぬ棒引ち記号や、あてぃん無えんてぃん済むぬ臨時音ねえそおるむんやあらん。やくとぅ、ひらがな表記すぬばすお「うちなあ」とぅさんでえならん。「うちなー」んでぃちぬ書ちいや、「うちな」びけんが基本音成てぃ、くしぬ「な」びけえ伸ばちょおる風儀(ふうじ)とぅ成ゆん今、「うちな」んでぃち発音すぬ(ちゅ)やむさっとぅ居らん。(八重山語んかいや沖縄表する「うきな」んでぃ言る語ぬあしえあん)

三、むし、うちなあぐちえ独立言語やあらな、日本語ぬ中ぬ一ちぬ方言でぃち考えゆるむんやれえ、「うちなー」んでぃ言る表記ん成い立ちゅん。あんやくとぅ、「うちなー」んでぃぬ表記え、まあまでぃん方言(あちけ)えどぅやる、じゅんに読だい書ちゃいすぬ一独立言語とぅしえ、考えらってえ無えらん表記法どぅやる。

 

方言扱えやれえ普及活動ん、うぬあたいぬレベル小ぬ取い組みどぅ成いる、創作活動んでえや、じょうい、ふるうわあするくとぅぬ成ゆみ。

 

■歴史表記うとおてぃぬ「うちなあ」

歴史的表記からん吟味しんちんだ。おもろさうしうとおてえ、沖縄や「おきなわ」「ゆきなわ」「よきなわ」んでぃち書かっとおん。くぬゆうな書ちい様が、じゅんねえ、ちゃぬ風儀(ふうじ)し、発音さってぃが()たらあ分からんしが、(ぬう)やらわん、「うちなあ」や(んかし)え四音節やたしが、「わ」ぬとぅくるびけんが長音化し来ゃるむんやるくとぅぬ分かゆん。「うちな」ぬ、一番くしぬ語ぬ「な」が(ふぃ)()ばさっとおる音あらんくとお(あち)らかやん。同ぬぐとぅ「かあ(川)」「なあ(庭)」「なあしる(苗代)」や「かわ」「みや」「なわしろ」(じるん、おもろさうし表記)から変わてぃ来ょおるむんどぅやる、棒引ち表記「かー」「なー」「なーしる」ねえし「か」とぅか「な」ぬとぅくるが伸ばさっとおる音やれえ、元ぬ語とぅ、けえ違ゆん。

 

■うぬ他ぬ長音表記ん母音使えびちい

右や、ちょうどぅ、ある語音(ぐうん)が長音成とおる風儀ぬ(りい)()じゃちょおるむんやしが、うぬ(ふか)ぬ長音にちいてぃん固定音(基本音)やるむぬお、母音使(ちけ)えびちいやるくとお「うちなあぐち表記論」んじ、うんぬきとおる(とぅう)いやん。

 

■棒引ち表記えうちなあぐち特有ぬむぬおあらん

棒引ち表記主義者あ、まるけえてぃえ、「長音や日本語とぅ同ぬぐとぅ母音使えや、さんてぃんしむい、(どぅう)なあくるぬ書ちい様ぬあてぃん済みるする」んでぃち言ぬ(ちゅ)ん居しが、うんなばあやアイデンティティー? ゆ強々(ちゅうぢゅう)とぅ()ん。やしが、棒引ち表記えうちなあぐち特有ぬむぬやあらな、日本語ぬ方言表記んじん良う使あらっとおるむんどぅやる。独立言語とぅしちぬ風儀、考えらんてぃん済むぬ方言や発音表記びけんし、(ちむ)ふぃぞおくとぅるやる。

 

*また、うぬゆうな「うちなあ」表記主義者や、我一人(わんちゅい)やあらな、他なかい古波蔵保好氏(『沖縄物語』著者)、野原三義氏(『うちなあぐち考』著者)たあがめんせえん。

■はじめに

一、「沖縄」の表記には「うちなあ」の他に「うちなー」「うちなぁ」がある。このうち「うちなー」が比較的多く使われているが、うちなあぐちを一言語(独立言語)として位置付けた場合の観点からこの表記の妥当性についてみてみたい。

二、また、うちなあぐち表記は日本語表記で使用されるひらがなや漢字を借用している以上、その表記例をも基準としていることを前提としている。別の前提に立つのであれば、それは従来にない新しい表記論に基づくことになるので、その根拠を示さなければならない。そういう意味において別の表記法を新たに設ける困難を考えれば、日本語表記法に準じたものが、最も分かり易くシンプルな表記法といえる。

三、また、カタカナ表記は主に外来語や発音表記に使われているので、ここでは論外とする(カタカナ使いも日本語に準じる)。

■長音表記としての棒引き表記の役割と意味

「うちなー」表記について論じる前に日本語での使用例を検証してみる。

「おかあさん」「おかーさん」「おかあさーん」の場合

「おかあさん」の発音は「オカーサン」である。「おかーさん」と表記しないのは、棒引き表記が日本語では臨時伸ばし音を表すのに用いられ、単語の基本音を表すものとしては用いられないからである。例えば「おかあさーん」における「さーん」は叫んでいる状況を〈臨時〉音で表しているのであって、「おかあさーん」という単語として存在するわけではない。このように、日本語における棒引き表記はあくまで臨時伸ばし音であるから、これを省いた「おかさん」は、もはや「おかあさん」という意味としては認識されない。あくまで「おかあさん」が固定音(基本音)としての単語である。

さらに例を挙げると、「おい」は辞典に載っている単語であるが、「おーい」は「おい」とは別の単語ではなく、棒引き表記(臨時伸ばし音)が入っても「おい」の意味が変わるわけではない。つまり棒引き記号「ー」は正規音外(余分な音)を表すのに用いられるものなのである。

このような棒引き表記の臨時音表記としての使われ方には次の法則が成立する。

臨時音(棒引き表記)の法則(決まり)

一、基本音(正規音)と区別するためのものである。

二、省略しても語の意味は同じである。

三、国語語彙として認識されていない各地の方言表記には臨時音以外での棒引き記号使用が認められる。(元々、標準語語彙として認識されてない、方言の場合は取り立てて基本音と臨時音を区別する必要性がないからだと考えられる。)

*なお、臨時音記号は慣例的に棒引記号の他に母音の小文字や、「〜」記号等が用いられている。

基本音(固定音)表記(標準語表記)の法則

一、音を表す文字で表す(棒引き・波線等、特定の音を有しない記号は用いない)。

二、単語(固定音)として確定した単語の長音は前の音の母音段音を連ねる。但し前音がオ段の場合は「う」または「お」の二通りある(前者の例は「おとうさん」、後者の例は「とおり〔通り〕」である)。 

■表記「うちなー」の検証

では本題の「うちなー」の表記について日本語の表記法に照らしながら検証してみたい。

「うちなー」は「うちな」の伸ばし音ではなく全体が固定(基本)音

一、「うちなー」の「うちな」が基本音で「ー」は基本音でないということになる。

二、「うちなー」から「ー」を省いた「うちな」では意味が通じない。発音上の「ウチナー」はその全体が固定音であり、後部分の棒引記号はあってもなくても良い臨時音の類ではない。したがって、ひらがな表記をする場合は「うちなあ」でなければならない。「うちなー」と表記すれば、あたかも「うちな」を基本音として、「な」の部分を伸ばし音にしている風体となる。今日、「うちな」と発音する者は皆無に近い。(八重山語には沖縄を表す「うきな」という語がある)。

三、もし、うちなあぐちを独立言語ではなく、日本語の一方言として位置付けるなら、「うちなー」という表記は成立する。つまり「うちなー」の表記はあくまで方言感覚の域を出ず、うちなあぐちを読み書きすることを前提とした一独立言語としては考えない表記法なのだといえる。

方言感覚では普及活動もその程度のレベルでしか取り組むことができず、まして創作活動も育たないだろう。

■歴史表記にみる「うちなあ」

歴史的表記からも検証してみよう。おもろさうしでは、沖縄は「おきなわ」「ゆきなわ」「よきなわ」と表記される。上の表記が実際にはどのような発音だったかは定かではないが、いずれにしても「うちなあ」はかつては四音節だったのが、「わ」の部分が長音化したのだと分かる。「うちな」の後語の「な」が引き伸ばされた音ではないことは明らかなのである。同様に「かあ(川)」「なあ(庭)」「なあしる(苗代)」は「かわ」「みや」「なわしろ」(いずれもおもろさうし表記)が変化したものであって、「かー」「なー」「なーしる」のように伸ばし音では元の語と異なってしまう。

■その他の長音表記も母音を用いるべき

右はたまたまある語音があたかも長音化した例を挙げたのであるが、その他の長音についても固定音(基本音)である以上は母音を用いるべきであることは「うちなあぐち表記論」で述べている通りである。

■棒引き表記はうちなあぐち特有ではない

棒引き表記主義者は時として、「長音を日本語と同じように母音使いする必要はなく、独自表記があってもよい」などと、この場合はアイデンティティー? を強調する。だが、棒引き表記はうちなあぐち独自のものではなく、日本語の方言表記にはよく用いられている。独立言語としての体裁に配慮する必要のない方言は発音表記だけで事足りるからである。

*ちなみに、この「うちなあ」表記主義者は私一人ではなく、他に古波蔵保好氏(『沖縄物語』著者)、野原三義氏(『うちなあぐち考』著者)らがいる。